私は花に止まって、その蜜を吸っていた。白い花弁で、蜜は美味であった。
一つの花、もう一つの花とヒラヒラと飛んだ。暖かい春風に柔らかい陽光、青い空を背景に、蝶をしていた。
すると、声が聞こえた。
わぁ、アサギマダラだ、薄青に黒い翅脈はそうだ、いいか貴重な蝶だ、ユックリと迫るぞ、失敗はできない、しっ、黙れ…
この後は無言になったが、草を踏む音が聞こえてきた。二人いる。蝶マニアだ。
ガサっ、ガサっ。
捕まえる気だ。ヤバい、逃げないと。私は力を込めて羽根を動かした。体が上下に揺れる。草を踏む音で近づいて来たのが分かる。さらに、力を入れるが二人との差が縮まるばかりだ。もう無理だ。私は必死になる。必死だ。近づく二人の影の中に入った。捕まったら標本だ。羽根が千切れそうな位に羽ばたいた。
死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ。
死にたくない。
死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ〜〜〜〜
ついさっきまで、死にたいと思っていたのに、今は、生に執着して必死に羽ばたいていた。