英単語(そこから来た日本の外来語)には、ギリシャ・ローマ神話で語られる神の名前から来ているのがあります。日本人にはアポロとかヴィーナスとかいう一部の名前以外は馴染みがないので、単語起源の話には、ピンと来ないかもしれませんが、神話の起源を見ると、その話も含めて興味深いものがあります。
古代史の順番でいうと、ギリシャからローマで、ローマ神話はギリシャ神話をほぼ踏襲しています。しかし、名前が変わるので、注意が必要になります。ギリシャ名−ローマ名−英語名、という三段階の対応表が必要になります。
このサイトの対照表が分かりやすいので、リンクを貼ります。
http://zatsubundou.fc2web.com/dt_godname.htm
神の家系図はここのページのリンクを貼ります。ゼウスの浮気相手が書いてあって、秀逸です。
http://www.palette.furukawa.miyagi.jp/space/astronomy/constellation/greek_gods.htm
オリンポス12神の対照表

ギリシャ | ローマ | 英語 | 概要(Wikipediaより) |
Zeus | Jupiter | Jupiter | 主神。全宇宙や天候を支配する天空神。 |
Hera | Juno | Juno | ゼウスの妻。結婚、母性、貞節を司る。 |
Hades | Pluto | Pluto | 冥界の神 |
Poseidon | Neptunus | Neptune | 海と地震を司る。 |
Ares | Mars | Mars | 戦を司る |
Hermes | Mercurius | Mercury | 伝令神。旅人や商人の守護神。 |
Apollon | Apollo | Apollo | 芸術、光明を司る。 |
Artemis | Diana | Diana | 狩猟、貞潔、豊穣を司る。 |
Athena | Minerva | Minerva | 都市の守護、戦い、知恵、芸術等を司る。 |
Aphrodite | Venus | Venus | 愛と美を司る。 |
Hephaestus | Vulcunus | Vulcan | 炎・鍛冶を司る。 |
Hestia | Vesta | Vesta | 竈・炉を司る。 |
Dionysus | Bacchus | Bacchus | 葡萄酒、豊穣、酩酊を司る。 |
Demeter | Ceres | Ceres | 豊穣を司る。 |
*表には14柱あるが、Hades か Demeter か、または、Hestia か Dionysus か、で説によって変わる。
惑星の名
惑星の名前は、ローマ神話の神の名前が使われている。 水星 Mercury 金星 Venus 火星 Mars 木星 Jupiter 土星 Saturn 天王星Uranus 海王星Neptune 冥王星Pluto *Saturn: サトゥルヌス、農耕と収穫の神。ギリシャ神話のクロノス(Cronus)に相当する。 *Uranus: 「天」の意味。原初の神々の王。ガイアの息子にして夫。 *木星の衛星の名前は、Jupiter ゼウス関連の名前だ。この好色家に言い寄られた美女、美男子ばかりだ。イオ、エウロパ、ガニメデ、カリスト、(Io, Europa, Ganymede, Callisto)という有名な木星衛星も例に漏れない。ガニメデは美男子で攫われたが、あと三人はゼウスに愛され、妻のヘラから酷い目にあっている。

月の名
1月から6月までローマ神話が元になっている。 1月 January:門と扉の守護神ヤヌス(Janus)が由来。二つの顔を持ち、未来と過去を見ている。ゆく年くる年、的に1月の神になっている。 2月 February: 月と贖罪の神フェブルウス(Februus)が由来。古代ローマに2月に行われる慰霊祭フェブルアーリア(Februalia)の主神。 3月 March:軍神マルス由来。この月が一年の始まりで、軍事計画も始まる月であった。 4月 April:この月ヴィーナスを讃えるウェネラリア(Veneralia)が行われていた。そのギリシア名のAphrodite由来。 5月 May: 春と豊穣の女神マイア(Maia)由来。 6月 June: 結婚・出産を司る女神ユノ(Juno)由来。ジューンブライドもここから発生。
曜日の名
Saturday土曜日だけがローマの農耕神・サトゥルヌス(Saturnus)由来。 *Sunday, Monday, はそれぞれ、太陽と月を含んでいるが、火曜から金曜までは、北欧神話の神の名から来ている。ただし、ローマ神話の神、惑星の火水木金の神と対応している。 Tuesday: 戦いの神・テュール(古英語:Tiw)< ローマの戦いの神・マルス(Mars) Wednesday: 聡明な死の神・オーディン(古英語:Woden) < 知略と冥界の神・メルクリウス(Mercurius) Thursday: 雷神・トール(古英語:Thunor)< 天空神・ユピテル(Jupiter) Friday: 美の女神・フレイア(古英語:Frigg)< 愛の女神・ヴィーナス(Venus)
化学元素の名
チタン Titanium Ti ギリシャ神話の巨神族「タイタン・ティターン」 ニオブ Niobium Nb ギリシャ神話のタンタロスの娘(Niobe) パラジウム Palladium Pd アテネの女神(Pallas) プロメチウム Promethium Pm ギリシャ神話の神「プロメテウス」 タンタル Tantalum Ta ギリシャ神話のタンタロス(Tantalos) ウラン Uranium U 天王星(Uranus) ネプツニウム Neptunium Np 海王星(Neptune) プルトニウム Plutonium Pu 冥王星(Pluto) *タイタン・ティターン、オリンポス十二神と戦い敗れた巨人族。その時、地底に埋められた。チタンが鉱石中にあるため、この名前が採用された。この形容詞が titanic である。「巨大な」の意味。さらに、そこから、the Titanic の命名、あの「タイタニック号」。 *ニオブ、その傲慢な態度で神の怒りを買い、その辛さで石になった。タンタロスの娘である。 *パラス、トリトンの娘。命名時、小惑星にパラスと名付けたのに合わせた。 *プロメテウス、人類に火を与えたことで、ゼウスに山に磔にされ、毎日怪鳥に肝臓を食べられるという罰をもらう。不死だるために、苦しみが永遠に続く。 *タンタロス、息子を料理して神に出し、罰を受ける。その罰がtantalize の元になった。(後述)
一般的な単語 固有名詞ではなく、一般の単語に溶け込んだものもある。物語とともに紹介。
Achilles’ heel
「唯一の弱点」。勇者アキレウスAchilles は、母が幼児の時に、冥府スティックス川に体をつけて不死身になった。しかし、母が握っていた踵は不死身にならなかった。そこに、矢が当たり、死んでしまう。

atlas
「地図帳」。アトラスAtlasはオリンポス神との戦いに負け、ゼウスに天空を背負う役目を負わされる。その姿が16世紀の地図帳の表紙に使われたことが由来。

cereal
「シリアル(食物)」。ローマ神話の、農業、穀物の豊穣の女神ケレス Ceres 由来。
cloth
「布」。運命の三女神の一柱クロト Clotho 由来。「運命の糸巻き」を紡ぎ、人間の寿命を決める。
chaos
「カオス」。ギリシャ神話の原初の神、「混沌状態」からガイア、タルタロス、エロスを生む。
chronology
「年代記」。時の神クロノス Chronos 由来。ゼウスの父のクロノスとは別。同じという説もあり。シュロスのペレキュデースが創作した神。chronometer(クロノメーター)、chronicle(年代記)、synchronize(同調させる)、anachronism(時代錯誤)も同様。
erotic
「エロティックな」。恋心と性愛を司る神、エロス Eros 由来。当初は青年男性の姿であったのだが、やがて、少年の姿(キューピット)になる。

echo
「木霊」。森のニンフ、エコー Echo 由来。ニンフ達とのゼウスの浮気を調べに来た妻ヘラに、お喋りなエコーがいろいろと話しかけ、その話題をそらす。それを知ったヘラは怒り、自分から話せず、相手の言葉の最後だけを繰り返すようにされる。好きになったナルキッソス(後述)にも、繰り返すだけで会話がなりたたず、絶望する。あまりの絶望に、身体はすりきれ、声だけが残った。
Europe
「ヨーロッパ」。ゼウスに愛された人間エウロペ Europe 由来。牡牛に変身したゼウスにミノス島に連れて行かれて、交わることになる。後にミノス王の妃になる。
fury
「激怒」。復讐の三女神、エリーニュス Erinyes 由来。髪は蛇、背に羽根、手に青銅の鞭を持つ老婆の姿。尊属殺人者には容赦しなかった。
hypnosis
「催眠術」。眠りの神、ヒュプノス Hypnos 由来。母ニュクスが地上を夜に帰る時、この神が人々を眠りへと誘う。優しい青年の姿だ。
lethargy
「無気力な」。黄泉の国にある川 レーテ Lethe 由来。この水を飲むと人は全てを忘却するという。
mentor
「メンター」。トロイ戦争で国を離れるオディッセイアが息子の教育を託したメントール Mentor 由来。
morphine
「モルヒネ」。眠りの神ヒュノプスの息子、夢の神 モルフェウス Morpheus 由来。人の形になって、夢の中に現れる。映画Matrix に出てくるモーフィアスもこの神から。
music
「音楽」。芸術の九姉妹神ムーサ Muse 由来。アポロンに使える。カリオペ(叙事詩)、クレイオ(歴史)、メルポネペ(悲劇)、エウテルペ(抒情詩)、エラト(恋愛詩)、テルプシコラ(舞踏)、ウラニア(天文、占星)、タレイア(喜劇)、ポリュヒュムニア(音楽と幾何学)。
narcissism
「ナルシズム」。美青年ナルキッソス Narcissus 由来。池の水面に映った自分の顔に恋をしてしまい、その場を離れられず衰弱死してしまう。または、それにキスしようとして池に落ちて、溺死する。その場に生えた花が水仙。

panic
「パニック」。山羊の角と下半身を持つ牧神パーン Pan 由来。シュリンクスの笛を持ち歩いて吹いている。昼寝を邪魔されると激怒して、相手を恐慌状態に陥れる。
tantalize
「じらす」。息子を殺して作った料理を出して、神を怒らせ、罰を受けたタンタロス Tantalus 由来。木に吊るされ、下の池の水を飲もうとすると水が引き、果実を取ろうとすると風に吹き飛ばされる。不死だが、永遠の渇きと飢えに苦しむ。
企業名・商品名等、ギリシャ神話関連
アマゾン、インターネット通販
アマゾネス Amazonis。女性だけの狩猟及び戦闘民族。ヘラクレスやアキレスと戦っている。アマゾン川の名の由来。アマゾン社創始者ジェフ・ベソスは、ABC順の社名一覧で、上に来るように A で始まるものにしように考え、流域面積世界一のアマゾン川に着目した。広い範囲で売れる願いをこめた。

オリンパス、光学機器電子機器メーカー
Mt. Olympus、神々が住む山。創業時の社名「高千穂製作所」を、神の住む山繋がりで命名されている。
ナイキ、靴メーカー
ニケ Nike 勝利の女神。古代ではアスリートの守護神として信仰された。有翼の女神で、その翼が社のトレードマークになっている。社員が見た夢を採用したそうだ。

エルメス、HERMES ブランドメーカー
ヘルメス、Hermes、オリュンポス十二神。神々の伝令係、旅と商売の神。社名は創立者のティエ・エルメスの名前から。
ネクター、不二家の飲料水
ネクタルNectar、神々の飲み物。不老不死の霊薬。

ミューズ、石鹸
ミューズMuse 芸術の女神。(前述)

スターバックスのロゴ
セイレーン Siren 海の上半身が女性で下半身が鳥(又は魚)の怪物。岩礁から美しい歌声で航行中の人を惑わし、遭難や難破に遭わせる。オデュッセウスの放浪譚にも登場する。サイレンの語源でもある。

ヴェルサーチのロゴ
メデゥーサMedousa 髪が毒蛇の醜い女の怪物。それを見た者は石になる。元は美少女だったが、その髪をあまりにも自慢するので、嫉妬したアテナに髪の毛を蛇に変えられた。

イージス艦
アイギスAegis 女神アテナの盾。あらゆる災厄を払いのける魔除けの力を持つ。
オリオンビール
オリオン Orion 半神半人の美青年。女神アルテミスと恋仲になるが、女神の双子の兄アポロンの怒りをかい、毒サソリを放たれる。オリオンは海に逃げるが、さらに、アポロンは弓矢自慢のアルテミスに、遠くの海を指し、あの光っているのを射抜けないだろう、とけしかる。そして、女神は射抜く。これがオリオンの悲劇である。死後、星座になる。オリオン座はさそり座が沈んだ後に現れる。

セガサターン、家庭用ゲーム機
サトゥルヌス Saturnus 農耕と収穫の神。セガ社、六代目の機器で、第六惑星の土星 Saturn から命名。
ギリシャ神話関連表現
「迷宮入り」
labyrinth:「迷宮」。クレタ島の王ミノス Minosが、怪物ミノタウルス Minotaurを閉じ込めるために作った迷宮。アテネの王子テーセウス Theseusは、迷宮に入る時に糸を垂らして退路の方向を残し、この怪物を倒し、糸をつたって脱出した。
「幸運の神には前髪しかない」
seize the fortune by the forelock: チャンスの神だが、老人→美青年→女神、となる。千載一遇のチャンスを逃すな、という意味。
「王様の耳はロバの耳」
the king with donkey ears:イソップ童話で有名な話だが、元はギリシャ神話。ミダス Midas 王の話。このミダス王は、別の、さわればなんでも金になる、という話から、Midas touch「金儲けの才能」という表現も生んでいる。
「エディプスコンプレックス」
Oedipus complex: フロイトが提示した心理学用語。母親を愛し、父親を憎む、という男根期の無意識状態を表す。オイディプス王は偶然に殺した男が父親で、愛して子をもうけたのが母親と知り、絶望する。両目を潰して、放浪の旅に出る。女児の逆のパターンもギリシャ神話由来、エレクトラ Electraコンプレックスという。
「パンドラの箱」
Pandora’s box: ゼウスが作った人類最初の女性パンドラは人間界に送られた。その時に絶対に開けるなと言われて、箱を持たされた。好奇心に負けたパンドラは開けてしまう。封じられた全ての災厄が世界に飛び出してしまう。ただ、「希望」だけが残った。
「黄金時代」
Golden Age: ギリシャ神話では、時代を五つに分けている。黄金・銀・青銅・英雄・鉄、である。最初の、ゼウス以前の黄金時代は神と人間がともに平和に暮らしていた。
「スフィンクスの謎」
the riddle of the Sphynx: ライオンの体で人間の顔を持つスフィンクスはWhat walks on four legs in the morning, two legs at noon, and three legs in the evening? という謎をオイディプスに問う。彼は「人間」と答える。エジプトのスフィンクス像が有名。
